SWINGIN' Live Report update: 2003. 1. 19


2002年 12月 13&14日 Madison Square Garden (NYC) & Fleet Center (Boston)
Live Report TOSHI
NY編
16時過ぎから降り出した雨が徐々に強くなっていくのを、ホテルの16階の部屋から見ながら様々なことを考えていました。「新曲の仕上がりはどうなんだろう」「Howieの抜けたコーラスの穴は埋まるのか」「George Harrisonの曲は何をやるんだろう」などなど。期待と不安で一杯の心を少しでも落ち着けようと、昼間の観光で買い求めた雑誌に掲載されているTPのインタビューをただ眺めながら出発の時間を待っていました。

ホテルの前でタクシーに乗り、会場となるMadison Square Gardenへ向かったのが18時頃。48丁目から東へ進み南に下り、車は雨のマンハッタンを走っていきました。車窓が曇り街の風景はほとんど見えません。昼間あれほどの活気を呈していたのに、今は寂しげな表情を見せている世界一の都市を走る車の中で (いわ)ぶちさん、Mayuさんと他愛の無い話をしているうちにMadison Square Gardenの南側に到着しました。雨を避け、建物に走り込んで2階に上がると、入り口でTPのアップのポスターが我々を迎えてくれましたが、その表情は「よく来たね」と言っているようにも、また「こんな遠くまでよく来るな〜」と皮肉っぽく笑っているようにも感じられました。

エスカレーターで4階まで上がりゲートから入ったMadison Square Garden (以下 MSG)は人影もまばらでした。自分の席を探し当て、座る前に一呼吸して天井を見上げると、そこにはMSGをホーム・コートとするNBAとNHLの永久欠番選手のバナーとチャンピオン・フラッグが吊るされているのが目に入りました。NBAが大好きな私にとって、ここは聖地のような場所なのです。そこに飾られている番号を一つ一つ目で追いながら、現役時代を知っている選手、その活躍を書籍や残された映像でしか知り得なかった選手の顔を思い出しながら感慨に耽っていました。

ひとしきりNBA個人的感傷ツアーを終え、現実のMSGに戻ってくると会場内のBGMが耳に入ってきました。The Animals "It's My Life"、Jimi Hendrix Experience "The Wind Cries Mary"など、TP&HBが聴いたであろう60年代の曲が次々とスピーカーから流れていたのですが、そのセンスの良さはさすがです。下に視線を移すと、ステージの上では沢山のスタッフが最終調整に忙しそうに動き回っていました。ステージの構造はMayuさんのレポートで触れられていた通りで、玉葱1/4カットを思わせるような変わった形の構造物が建てられていて、その内側はシワシワの白い布で覆われていました。センターマイクの向かってやや左側にスタンド・アローンのキーボードが設置され、ギターテクが何種類かのギターのサウンドチェックをし終えたのが19時25分頃。それから10分程経ってフロント・アクトのJackson Browneと彼のバンドメンバーが登場してきました。
※Jackson Browneのミニミニ・レポートはこちらをご覧下さい。

Jackson Browne (以下 JB)がステージを降りたのが20時38分頃。会場が明るくなり、スタッフはTP&HBの準備に入りました。まず、JBの使ったキーボードを移動させケースに収め、それから4人掛かりで絨毯を敷き始めたのには驚かされました。通常はメインになる仕掛けを見せない位で、それ以外の装飾はコンサート前に済ませてしまうものですが、JBのステージが終了してから最終的な装飾を始める風景に、TP&HB側からの彼に対する敬意を感じました (翌日のBostonでも同様の工程でした)。
21時を過ぎて、会場は8割程の埋まり具合になっていました。JBバンドのドラムセットも片付けられ、マイクのセッティングも終わり、ギターやキーボードのチェックもあらかた終わっているようだったのですが、何人かがMikeのアンプの回りに集まってゴソゴソと作業を続けていました。どうやらアンプのヘッドの調子が悪いようでFenderのロゴが入ったツイード(薄い茶色)のヘッドをひっくり返したりして音を確かめていましたが、5〜6分程で解決したようで、ヘッドを元に戻すとスタッフがステージ後方に一列に並びました。

いよいよTP&HBの登場か。観客の歓声が一段と上がります。その時、並んでいるスタッフの中で左右に1人ずつステージ上の構造物の上方から伸びているワイヤーを手にしているのが目に入りました。「何をする気なのかな〜」と思っていると、舞台右手奥からメンバーがやってくるのが見えました。スタッフからギターを渡され手早く準備する彼らに、ひときわ大きな歓声が寄せられた瞬間、ワイヤーを握ったスタッフが一気にそれを引き下げました。すると構造物の内側を覆っていた布が見事に剥がされ、シワ一つない布が現われたのです。文章にするとメンバー登場からここまで長く感じられるかもしれませんが、全部が同時進行なので、ほんの短い間に起こったことでした。布が剥がされるのにほんの少し遅れ、照明が暗くなり、それを待っていたかのようにTPは抱えたGuildの12弦でイントロのリフを弾き始めました。"The Last DJ"の始まりです。イントロと同時に後の構造物に彼らの姿が映し出されました。シワの無い布はスクリーンだったのです。

曲が始まった瞬間、19,000人収容のMSGを埋めたファンの歓声がドッと響き、私の席のあるスタンドも(多少ですが)揺れました。Mike CampbellがRickenbacker360-12でリズムを刻み、そこにScott Thurstonの弾くMartin D-18が絡んできます。Benmont Tenchのキーボードはバンドの音にに厚みを加え、Steve Ferroneの跳ねるようなドラムと単純かつ正確なRon Blairのベースがしっかりとリズムを支えています。スクリーンには『The Last DJ』のブックレットに描かれていたイラストやメンバーの姿が次々と映し出され、演奏に合わせて照明が色や明るさを絶妙なタイミングで変えていき、もうオープニングから全開という感じでした。エンディングでは「The Last DJ」のロゴマークが映し出され、やがて暗転に。

その間にギター交換。TPはFender Telecaster(赤)、MikeはFender Stratcaster(黒)に。準備が整うと、間髪をいれずにBenmontがイントロのフレーズを弾きだしました。曲は"Love Is A Long Road"。Steveの叩くスネアがビシビシと響き自然と体が揺れてきます。Mikeが楽しそうにバッキングを弾いているのが遠目でも分かりました。Ronは緊張気味、BenmontとSteveはマイペース、Scottだけが少し神経質な表情を浮かべながらバンドの音に気を配っているようです。全く違うアルバムに収録されている曲が続いたにも関わらず、メドレーの様に見事に流れていったのには正直驚きました。当然、セット・リストを考える時点で「流れ」などは熟考されているというのは充分承知しているのですが、それでもここまでスムーズだと、ただただ感心するばかりです。ところが「But love is a long, long road」の演奏を聴いたときにホテルで考えていた不安は現実のものになってしまいました。コーラスが薄い!Benmont、Scott、Ronの3人で頑張ってはいるのですが、Howieの抜けた穴はこんなにも大きかったのかということをあらためて思い知らされました。20年近くHeartbreakersのサウンドに欠かせないコーラスの要だったHowieの存在やはり大きかったという事をはからずも露呈してしまった瞬間でした。後半のギターソロに絡むコーラスも物足りない終わり方でした。ウ〜ン、残念。

2曲目が終わって、初めてTPのMCがありました。観客への挨拶やJackson Browneへの謝辞を述べ、一息入れてから始まったのは"Have Love Will Travel"。これが聞きたいがために今回の遠征に参加したと言っても過言では無いほど大好きな曲なので、この瞬間までセット・リストから消えてしまわないか心配で仕方ありませんでした。TPはそのままTelecasterを抱えていましたが、Mikeは年代物のGretsch White Falconを肩にしています。このギターを持っている写真は他のHPで見ていたのですが、この曲で使われているとは考えもしていなかったので、驚くと同時に期待がさらに高まりました。「どんなプレイをするのだろう。どんな音を聞かせてくれるのだろう」と恥ずかしいことにオジサンは子供状態です。「TP&HB版R&B」、それがアルバムで初めてこの曲を聞いた時の印象でした。TPのボーカルの持つ雰囲気はBob Dylanを彷彿とさせるフォーク・ロック的なものでしたが、Heartbreakersの演奏はR&Bそのものに感じたのです。昔のAtlanticやStax(そういうレーベルがかつてあったのです)が持っていた魔法の輝き、南部の、それもMemphis SoundのTP&HB流の解釈がこの曲にはビッシリ詰まっていました。Booker T. & MG'sにも優るとも劣らないHeartbreakersのR&BをLiveで聴くことができるなんて、なんて幸せなんだろうと思いっきり楽しみににしていたのです。ところが彼らの演奏には残念ながら「タメ」も「コク」もありませんでした。曲の完成度自体は決して悪くなかったのですが、R&Bとは違い普通のR&Rになってしまっていたのです。この曲の持つ独特の「うねり」が影を潜め、代わりに跳ねるような明るさが表に出てきてしまい、一種別の曲の様相を呈していました。要求が高すぎるのか、私はモヤモヤした心を抱えたまま彼らの演奏を聞きつづけていました。簡単そうに聞こえても、アルバムに収められたようなノリをだすのは難しい曲なので仕方ない部分はあると思います。ただ「もう二度と演奏して欲しくないか?」と問われれば答えは「ノー」です。できれば、この曲は演奏し続けて欲しいです。そうすることでさらに磨きが掛かって、新たな輝きを得るのではないでしょうか。今はまだ原石、そう思うことにしました。
TP&HBの曲の中にはギターそのものと切っても切れない関係のものがいくつかあります。TPがRickenbacker1997を手にしただけで会場中のほぼ全員が次の曲が何かをすぐに理解しました。イントロが始まる前から歓声を上げ拍手をしている観客のなんと多いこと。予想通り"Free Fallin'"が演奏されるとオープニング以上の盛り上がりで、エンディングまで歌い続けている人がほとんどでした。TPはステージ狭しと動き回って、エンディング前のギターのリフが上昇していく所ではRickenbackerを体の右側に構え、右足を軽く前に上げたまま左足だけでリズムに合わせて後ろにステップを踏んで進んでいきました。とにかくTP若し。Mikeは珍しく12弦ギタ―を使わずに、Fender Jazz Master(薄い青)でプレイしていましたが、意外にもこのサウンドが曲に合っていました。特に低音弦でのリフがカラッとしていて気持ち良かったです。

5曲目は"When A Kid Goes Bad"。TPはFender Stratcaster(薄い青)、MikeはGibson Les Paul Custom(黒)を抱えていましたが、TPの方はGeorge Harrisonが生前愛用していたサイケ・ペイントのStaratcasterと同じ物で、それを見ただけで「ウッ」ときてしまいました。オタクは困ったものです。さらにMikeのギターは2002年の夏に入戸野徹さん(この方に関してはこちらをご覧下さい) からの手紙に添えられていた写真にあった物と全く同じ物でした。それでまた「ウッ」ときてしまいました(笑)。(※ギターに関してはこちらをご覧下さい。)
Mikeはこの日初めてスライドを聴かせてくれましたが、スタジオ・バージョンよりも太くて粘りのある音をだすLes Paul Customが曲をさらに印象深いものにしていました。後半には、これも今日初めてのTPのソロがありましたが、決してテクニカルではないものの、ノイジーでルーズな独特のサウンドを聴かせてくれました。

曲が終わると上着を脱いで、珍しく軽くステップを踏んでスタッフからギターを受け取ったMike。その仕草に思わず笑ってしまいました。腕をまくり、髪を少しなで、TPの準備を待ち切れないかのような様子でStratcaster(黒)のネックに指を走らせているMikeは、まるで待ちぼうけをくっている子供のようでした。TPがTelecaster(青)を肩にセンターに戻ってくると待ちきれなかったといわんばかりの勢いで"Shadow Of A Doubt (Complex Kid)"のイントロが始まりました。70年代の曲ということもあってか、いくぶん観客の反応が鈍かった様な気がしましたが、個人的には懐かしくもあり、また大好きな曲でもあったので嬉しかったです。隣で踊っていた40代後半位のご婦人と目が合い、思わず微笑み合ってしまいました。この種のR&Rを演奏させたらTP&HBは世界一と言っても過言ではないのでしょうか。ノリに流されず、メリハリをつけキッチリと決めてきます。演奏力の高さには驚かされるばかりです。曲の最後でMikeはギターを肩の辺りで水平に構え前後左右に揺らしてビブラートを掛けていたのですが、その姿はまるでJimi Hendrixが乗り移ったかのようでした。

曲が終わりTPも上着を脱いで緑のシャツ姿に。その間にMikeだけがギターを持ち代えましたが、それはGretsch Cliper(薄い青)。これも入戸野さんの工房で2002年の夏前に手を加えられた物で、以前は茶色いギターでした。Mikeがこれを手にするということは"I Won't Back Down"の登場を意味しますが、昨年のLas Vegasではアコースティック・バージョンでの演奏だったので、私にとっては初めてのオリジナル・バージョン体験でした。観客はこの時も大合唱でしたが、その熱気に煽られることも、かといって観客を煽ることもなく、彼らは自分達のペースをキープし続けました。ただ、この曲もHowieの不在を強く感じさせるものでした。このコーラスをScott一人だけで済ませるのは、いかに優れたシンガーである彼でも荷が重すぎます。というか無謀です。Ronのベースも若干重たく聞こえたのはHowieに肩入れし過ぎているせいだったのでしょうか。しかし、そんなモヤモヤを一気に吹き飛ばしてくれたのは、やはりMikeのギターです。この曲のソロはスライドですが、一度聴いたら忘れられない印象的なフレーズです。短いけれど難しいこのソロを、一音のミスも無く(私が分からなかっただけかもしれませんが)、軽々と弾きこなしていました。派手さはありませんが、本当に唸らされるプレイです。

暗いステージの上で今度はTPだけがStratcaster(薄い青)にチェンジ。8曲目に演奏したのは"You Don't Know How It Feels"。これもアメリカのみなさんはお好きなようで、Las Vegasでも大受けだった覚えがあります。その時は「let's roll another joint 〜」の繰り返し部分で、イケナイモノを巻くハンドアクションを付けて大声で歌う観客が多かったのですが、今回はそうした観客はほとんど見当たらず、代りにイケナイモノを吸いながら大騒ぎしている風景がそこら中で見受けられました。回りに漂うイケナイモノの匂いと相まって、不思議な雰囲気を醸し出していました。ソロは前後半に分けられ、前をMike、後ろをTPが弾いたのですが、完璧なフレーズのMikeとエモーショナルなプレイのTPという対比がユニークでした。

Howie不在が一番深刻だったのが次の"Mary Jane's Last Dance"。コーラスがScottだけでは、残念ながらこの曲の持つ魅力の半分が削ぎ取られた形になってしまっていました。もっとも、そんなことを気にしているのは会場中で私を入れても数えるほどしかいなかったでしょう。Liveではベスト3には入るであろう人気曲なので、今まで以上にMSGは沸き返っていました。そんな中で、何となく居心地の悪い感じがしたままで私はこの曲を聴いていました。ただ、楽器の演奏はほぼ完璧で、TPのソロはTelecaster(赤)を使い、ザックリとしたとても彼らしい音で、細かいフレーズを重ねるのではなく、歪んだ単音を長く伸ばし、それを繰り返すことで大きなうねりを生み出していましたし、対するMikeのギターワークも「巧みの技」としか表現のしようの無い、素晴しいものでした。Les Paul Custom(黒)でバッキングからソロ、またバッキングへとチェンジしていくのに、全くエフェクターに頼らずに自分のピッキングとピックアップのセレクトのみで鮮やかにきめていたのには、ただただ感心するだけです。

曲が終わるとTP&Mikeのギターチェンジがあり、その間に他のメンバーは一休みといっ感じで佇んでいました。戻ってきたTPのダラダラとした喋りが多少あり、その後はメンバー紹介に。Scott、Benmont、Steve、Ronと続き「私のBrotherでありPartnerである」とMikeが紹介され、一番の拍手を受けましたが、その時の照れたような笑顔が可愛いかったです。もうすぐ53歳だねMike(笑)。それが終わると2002年11月末に行われた「Concert For George」について触れ、さらにGeorgeへの想いが続いていきました。会場中の2万個近い目がTPに注がれ、次の曲への期待と興奮が今にも弾けそうになった瞬間、Steveの叩くスネアに導かれ、TPのGuild12弦から流れてきたイントロは私の予想("I Need You"  or "My Sweet Lord")とは全く違うものでした。「"Handle With Care"だ!」タイトルを叫んでからしばらくのことは良く覚えていません。本当に(後から考えると一瞬なんですが)記憶が飛んでしまいました。歳のせいじゃありません。我に帰って、右隣りのMayuさんと顔を見合わせ、嬉しさのあまりに思わず手を握り締めてしまいました。セクハラだったかな(笑)。演奏はとにかく良かったです。もう、この曲を聴けただけでもう本望です。NYまで来た甲斐があったなと。長生きしてると良いことがあるなと。「Concert For George」でJeff Lynneが歌っていたRoy OrbisonのパートはScottが完璧にこなしていました。しかもハーモニカまで吹く活躍で、本当に彼の存在の大きさを見せつけられたような気がしましたね。最初のソロでMikeはラストの音を中途半端に終わらせるという珍しいミスをしてしまいましたが、最後はStratcaster(黒)で伸びやかなスライドを聴かせてくれました。GeorgeのフレーズをベースにしながらMikeらしい音使いも挟み込んで構成されたソロは、最高の瞬間をより華やかに演出するのに大きな役割を果たしていました。イヤ〜、それにしても良かったな〜、嬉しいな〜(笑)。
会場の興奮を冷ますかのように、TPはギターを持ちかえた後、また話を始めました。「60年代には素敵なグループがいた。The Byrdsとか...(以下、翻訳不可能)」そんな話題をひとしきり語った後に、ステージの中央やや左にTPとMikeが向かい合わせに立ちました。顔がくっつきそうといえばオーバーになりますが、ギター同士は本当に重なるかと思うほど近い距離に立った2人。TPがバンドを振り返り、それからMikeに向き直ってリズムを確認するかのように上半身を前後に大きく揺すりました。1回、2回...4回程動いたかと思うと、TPの右手がAのコードを刻み始めました。これを聞いた途端「オ〜〜"Feel A Whole Lot Better"だよ」と、また叫んでしまいました。2曲続けて叫ぶなんて恥ずかしいかぎりです。でもですね、TPとMikeが向かい合わせでギターを弾き、しかもそれがこの曲とは、素敵すぎて嬉しすぎて仕方なかったのです。さらにTPが抱えるのはGretsch Country Gentleman、Mikeの方はRickenbacker360-12、この音の組み合わせはThe Byrds時代のDavid CrosbyとRoger McGuinnの再現ですから、ここまでくれば本当に言うこと無しです。演奏の方はたぶん最高だったと思います。よく覚えていないのです。済みません...さっき顔を見合わせた左のご婦人に「アナタ、すごい笑顔になってるわヨ」と言われてしまいました。それはそうですよ。こんな曲が2つも続いたんですから。

大興奮の2曲に続いて"Can't Stop The Sun"が演奏された時、観客の大半は自主休憩タイムを取り始めました。イントロのMikeのアルペジオからゾクゾクする展開の曲にもかかわらず観客の大半がBGMであるかのように、自由気ままに振舞っていたのが強く印象に残っています。それもコンサートの楽しみ方の一つですから良いのですがね。Gibson Firebirdを使ったMikeのギターワークは完璧としか言いようが無く、The Beatlesの"Happiness Is A Warm Gun"を彷彿とさせる繊細なイントロ、起伏の激しい構成を支える変幻自在のバッキング・プレイ、聴く者に襲いかかるようなソロまでを流れるように弾きこなしていました。Benmontが時折交えるピアノのリフも、テクニックだけではこうした音はでないだろうと思えるような、含みのある響きを聴かせてくれました。この2人が居てこそのHeartbreakersであるということを再認識させてくれた演奏でした。Rickenbacker1997を抱えたTPが後からの照明に照らし出されながら歌う姿は、今でもはっきりと思い出すことができます。あの幻想的なシルエットは言葉にできないほどの感動を与えてくれました。現存するミュージシャンの中でRickenbackerが最も似合う男がステージに立っていたのです。思わず拝みそうでした(笑)。

まだ自主休憩タイムの観客が居る中、MikeはStratcaster(黒)を早々と肩にして次の曲を待ち受けウォームアップをしています。TPは水を口にして、再びCountry Gentlemanを抱えゆっくりとセンター・マイクの所に戻ってきました。後方のSteveがカウントを取りスティックで3まで数えた後、叩き出したドラムに続いて始まったのは"A Woman In Love (It's Not Me)"。これが本当に最高!(ボキャブラリーが少なくて済みません)。イントロの怒涛の盛り上がり、特にMikeのチョーキングの速さと音程の正確さは神業としか表現できません。演奏が静かになる歌い出しのTPのボーカルのなんと切ないことか。Steveのスティック捌きの正確さと熱さに体が揺れない人がいるのだろうか。本当に全くといって良いほど目立ちませんが、確実にこの曲に奥行きを与えているBenmontが弾くキーボードの唯一無二のフレーズに心が響かない人を私は絶対信用できない。それほど凄い演奏でした。N.Y.で演奏された曲でベスト1を選ぶとしたら、私は迷うことなくこの曲の名前を挙げます。80年代前半の曲ですが、「懐かしい曲を演奏してみました」という気配は微塵もありません。彼らの体の中から沸き上がる情熱と音楽に対する愛情が凝縮されたような演奏でした。

個人的な興奮が冷めやらぬうちにTPとMikeのギターチェンジは早くも終わりました。今度はTPがFender Electrick12弦、MikeがGibson SGです。『Hard Promises』とは順番が逆になりましたが、"The Waiting"の登場。これも昨年のLas Vegasではアコースティック・バージョンだったのでオリジナルの形では初めての体験です。TPの弾くジャラジャラとした12弦の音がMSGを埋めた観客を包んでいきました。それを聴いただけで私はもう夢の中。気持ちがフワフワと漂い心が体を抜け出してしまったかのようです。TPの歌う「yeah yeah」に続いて「yeah yeah」を叫んでいても夢見心地のままです。新たに挿入された中間部のブリッジでのMikeのアルペジオとBenmontのピアノが幻想的な雰囲気を作り上げていたので、私はより深く夢の中に沈んでいきました。その眠りから覚めさせてくれたのはSteveの叩くスネアのフィル・インでした。豪快なリズムが加わり、すぐにMikeのソロが始まった瞬間、漂っていた心が体に戻り意識がはっきりしたのですが、オリジナルの雰囲気を活かしながら、よりハードに力強くなっていたギターの響きに鳥肌が立っていました。しかし、この曲はどんなアレンジで聴いても良いです。言いかえると、それ位曲自身に魅力があるのでしょう。
15曲目からはミニ・アコースティック・コーナーになりました。といってもTPがアコースティックなだけですが。まずはTPの弾くGuildの12弦が全体を引っぱっていった"King's Highway"。演奏はシンプルですが、変幻自在なボーカルとBenmontのピアノは、MSGの観客の鼓動が聞こえる程、熱くなった会場の雰囲気を鎮めていきました。先程までの大合唱とは違い、人々の心の底からでてくる声がいくつも重なり合って、バンドの演奏と溶け合っていました。

続いて"Learning To Fly"。今度はBenmontのピアノがメインです。TPはこの日初めて手拍子を求め、観客と共に歌いました。「Learning to fly〜」の歌詞がMSG一杯に広がり、世界中でここだけが聖なる空間になったような錯覚さえ覚えました。曲の最後に十字型に手を広げたTPがステージの中央に立つと、左右から2本の白いライトが彼を捉え照らし出しました。光の中に浮かび上がったTPのシルエットは息を呑むほどの美しさでした。

一転してTPの弾くリズミックなGuildの音が響き渡り、それを追いかけるかのようにRonの控えめなベースとBenmontのピアノが続き、"Yer So Bad"が始まりました。こうした曲を聴くとボーカリストとしてのTPの魅力があらためて分かるような気がします。しなやかで力強く、生の手触りがありながら、本音を隠し、他人を寄せつけないかのような底の知れない不安をはらんでいる歌... 50歳を過ぎた男の声に私は強くひかれてしまうのです。

ミニ・アコースティック・コーナーが終わり18曲目に登場したのは"Lost Children"。Mikeの弾く強烈なリフに続いてTPのファルセットで歌われる彷徨える子供達の物語。激しさと儚さと切なさの入り交じった世界を彼らは見事に表現していました。印象的なリフはTPがGibson SGで、ソロはMikeがGretsch Cliperで弾きましたが後半はそれが逆転。スクリーンに映し出された降り続く雪のような模様をバックに2人のギター・バトルは続きましたが、フト我にかえると手を握り締め息をするのも忘れるくらいに見つめていた自分がそこにいました。

座っている観客が次の曲では全員立ち上がりました。"Refugee"です。何度も書いていますが本当にMikeは偉大なギタリストです。チョーキングの早さと音程の正確さなどは全ギタリストの中でもトップランクのものです。有名な曲にも関わらず、まともなカバー・バージョンが無いのも、Mikeの鬼気迫るソロを聴けば頷けます。この演奏を再現するのは並のギタリストには不可能ですから。そうかと言って彼は弾きまくるという感じではなく、あくまでも歌のバック、バンドの一員であるというポジションを見失いません。その姿勢は賞賛に値します。TPはTelecaster(白)を抱えて、ソロを弾くMikeの側で嬉しそうにリズムを刻み、MikeはそんなTPに煽られ、フレットの上を縦横無尽に指を滑らせていく。Benmontのオルガンが聞こえにくかったのは残念ですが、腰の座ったビートを叩くSteve、昔を思い出したように伸び伸びとベースを弾くRon、ギターにコーラスにと大活躍なScottと、TPとそのバンドではなく、5人が一体となった見事なサウンドを聴かせてくれました。この時も、酸欠になるかと思う位大声で歌ってしまいました。お恥ずかしいかぎりです。

興奮が渦巻いている会場に、MikeがGuild Thunderbirdで弾くリフが叩き付けられました。昨年のLiveではオープニングの方で演奏されていた"Runnin' Down A Dream"が20曲目に登場です。もう何も言うことのできない程スゴイ演奏でした。とにかくSteveのリズムは崩れません。MikeやBenmontもリズム感は優れていますが、Steveの場合はあの音量をキープしながらリズムの走りももたつきも少ないので、演奏が大きく崩れることがありません。その支えに乗って、もうやりたい放題のMikeのギターが、これでもかという感じで迫ってきます。TPはステージを動き回りGibson Firebirdを高くかざしたりして観客を煽っていくし、もうM.S.G.全体がリズムに乗って揺れ始めたような気がしました。最後のコードをMikeが弾き、全員がエンディングを迎えると雷鳴のような拍手と歓声が沸き上が、その音に送られTP&HBは右手奥に消えていきました。
ステージの照明が落ちたのが23時10分。当然、アンコールを求める拍手は鳴り止みません。3分程過ぎた頃、メンバーがステージに戻ってきました。TPはスタッフからTelecaster(黄色)を手渡され、Mikeはメーカー不明の昆虫のクワガタの様なシェイプのギターを肩にしてポジションに立ちました。曲は勿論"You Wreck Me"。(コーラスの薄さ以外は)完璧な演奏で、アメリカを代表するR&Rバンドここにありといった風格さえ感じられました。

続いてもR&R。作者のChuck Berryに捧げるというMCで"Carol"が始まりました。この曲は今回のステージで唯一のカバー・バージョンでしたが(TP&HBのバージョンが発売されていないという意味で)、完全に自分達のものにしていました。TPはTelecaster(赤)、Mikeは今回も変なギターを使って40年以上も前に書かれたR&Rの名曲をステージ上で再現。足を広げギターを低く構えたMikeが弾きまくっていた姿が今でも瞳の奥に焼き付いてます。

世界で一番Rickenbackerが似合う現役ミュージシャンが三度登場しました。その手に握られているのはRickenbacker 660-12TP。"Free Fallin'"の時と同じく、観客は何が演奏されるのかも充分過ぎるほど分かっています。アンコール3曲目、そして今日の最後の曲は"American Girl"。即興のトーキング・ブルース風の始まりが意外でしたが、MikeがJazz Master(薄い青)でお馴染みのイントロを弾いてからはバンドも観客も一気に全開になりました。ギターを弾くというよりも、真剣勝負をしているという形容がピッタリするようなカッティングを聴かせるMike、余裕のボーカルのTP、楽しげなBenmont、職務に忠実なScott、笑顔のSteve、そして緊張が解けた表情のRonが、この日の最後を祝うかのようなサウンドを聴かせてくれました。

アンコールが終わり、最後に1人残ったTPも観客への謝辞を口にしてステージを降りていきました。時間は23時半を大きく回っていましたが、余韻の残るMSGを去るには、私の体はあまりにも熱すぎました。段々と人が少なくなっていく風景を眺めながら「このステージを日本で見たい」、そんな思いを強く深く胸に刻んだのです。良いものを観たな〜。
Boston編
12月14日のBoston Fleet Centerは前日と同じセットリストだったので大きな違いはありませんでした。前日と違い、印象に残った点を書いてみたいと思います。
"The Last DJ" TPは緑色のベルベットのジャケット、ジーンズ、スカーフ。Mikeは紺紫のジャケット、紫色のシャツ、ネクタイ、黒パンツ。
"Love Is A Long Road" イントロでTPは早くも手拍子を求めた。
"Have Love Will Travel" MikeのGretschの音は70年代初めのStephen StillsやNeil Youngを彷彿とさせる独特のトーンでした。
"When A Kid Goes Bad" 後半のソロはTPとMikeがギターのアームを使いまくっていました。
"Shadow Of A Doubt(Complex Kid)" この曲のScottはコーラスというよりもツインボーカルに近かった。Benmontの弾くリフとSteveの叩き出すリズムに乗って、コードを主体にしたMikeのリフが延々と続き、会場はスゴイ盛り上がりを見せた。
"I Won't Back Down" 始める前にTPは腕まくりしましたが、右腕の手首より少しヒジ寄りの部分にベージュのバンテージが巻かれていた。ギターに当たる部分なのでスリ傷でもできたのだろうか。Mikeも右手首に大きめの黒いリストバンドをしていた。
"Mary Jane's Last Dance" 始まる前にペットボトルから水を飲んでいたSteve。空になったのを確認してボトルを真後ろに軽く投げた瞬間にTPがイントロを弾きだした。それを聞いてSteveはあわててスティックを握った。その時の表情が何とも言えず面白かった。
"Handle With Care" 昨日同様、この曲の前にメンバー紹介。順番も一緒でしたが、違ったのはRonとTPがハグをしたこと。それとMikeを「The King Of 6 Strings」と紹介した後、TPはMikeにもハグ。迷惑そうなMikeの表情に爆笑してしまった。昨日間違った最初のソロに完璧な修正を加えてくる辺り、Mikeはさすがです。
"Feel A Whole Lot Better" TPがイントロを間違えた。演奏はそのまま進んだが怪訝そうなScott、慌てているRon、落ち着いて彼らに視線を送るMikeと、性格が顔に出ていました。どうなるかと思いましたが歌の中で上手く修正した辺りはさすが。
"Can't Stop The Sun" 昨日にも増して激しいソロだった。最後のコードを弾いた後Mikeはギターを頭の後ろに回しそのまま一周させた。珍しい。
"A Woman In Love (It's Not Me)" 席が昨日よりも近かったので、少し右上を見ながら切なそうに歌うTPの表情がよく見えた。
"The Waiting" 新しく加えられたブリッジ部分、昨日のアルペジオ主体と違いよりメロディアスな展開でした。
"King's Highway" 良く見るとMikeが持っているのはRickenbackerのシェイプを持った8弦ギターでした。音からするとマンドリンのようです。
"Learning To Fly" 照明が暗くなる中、スタジオ版と同じようにTPが口笛を吹いた。
"Yer So Bad" Steveはヒマだったので歌詞に合わせたジェスチャーをして脇のスタッフと遊んでいた。
"Lost Children" ギターバトルが凄かったにも関わらず、アリーナの客はほよんど座ってしまった。お陰で見やすくはなりましたが。
"Refugee" イントロの最後の音が伸ばせずに少し切れてしまった。そのためか、これ以降のMikeは全く笑顔が無く、ミスを取り返すといわんばかりのギターの弾き方だった。海賊盤を含め、今まで聞いた中でも最高に近い演奏でした。
コーラスに関して
両日とも演奏された23曲中コーラスが入っていたのが22曲。担当の内訳はScott Thurston 22曲、Ron Blair 6曲、Benmont Tench 5曲となります。これを見ても分かる通り、Scottの比重はかなり大きくなっています。メロディーも大幅に変更が加えられ、Howieの分までカバーしようという意図が明らかに見られましたが、残念ながら成功とは言い難い状態でした。これからの課題といったところでしょうか。
ステージ装飾
大きな特徴は、やはりスクリーンを構造物の中に組み込んだことです。そうすることによって観客はどこの席からも常にステージを見ながら、カメラで映される彼らのアップなどを見ることができるようになりました。ステージ脇に大型スクリーンやモニターを設置した場合は、近くの観客はステージを見て、それ以外の大部分はスクリーンの方に目を向けるという歪な状態になる場合が多いですが、これですと、どこの観客も全員ステージ方面に視線を向けるようになります。仕掛けとしては、照明を前面からあて、カメラで撮影した映像は裏から映すという方法です。スクリーンへの映像の投射方法は2通りあります。フロント(前面)打ちとリア(裏面)打ちと呼ばれていますが、通常はフロント方式です。会議などでOHPを投射しますが、あれは典型的なフロントです。上映環境の都合、どうしても前にプロジェクターを置くスペースが無いなどの特別な場合にのみリア打ちは使われますが、今回はプロジェクターを設置することによって(当然足場を組まなければなりませんので)観客の視線を遮るのを嫌ったのと、リアから映すことによって照明との色の重なりを防ぐことを目的にしたためではないでしょうか。また、カメラからの映像を白黒にすることでステージ上の照明に制限を掛けることのないようにとの計算もあったでしょう(スクリーンの回りが明るければカラーの場合、輝度の高い明るい色は見えにくくなってしまいます)。こういう配慮はぜひ他のミュージシャンにも真似して欲しいところです。
Jackson Browne ミニミニ・レポート / ギター・レポート