期待と不安で Fillmore に出かけ、最高のライヴを体験してから早3年。その感動を伝えたいと思ってHPを始めた訳ですが、なかなか思うように書けません。後回しにしているうちに、いつしか記憶は薄れ、レポートを書くことも難しくなってきた今日この頃です。リニューアルに併せて、覚えていることだけでも書き記しておくことにしたいと思います。
☆ 15th night: January 31, 1997
初めて見る実物の TP&HB。しかも見知らぬ土地で唯一人。それだけでも、私にとってはドキドキなのですが、オープニングにいきなり Roger McGuinn は登場し、もう本当に別世界にいるようです。開場から3時間あまり、既に待つことはそれ程ハードではなく、もうすぐ彼らを見ることができるのだという期待だけで一杯になっていました。
PM 9:00をまわった頃、彼らは静かに登場しました。多分、TPは観客に笑いかけて「やあ!」とか何とか言ったのでしょう。そして、いきなり激しいR&Rでスタート。もうそこからはジェットコースターに乗ったように、ワアーっと全てが走り出してしまったのです。そして私はスッカリその中に飲み込まれていました。だから、とにかく凄かったということ以外はほとんど覚えていないのです。
TP&HB の繰り出す音は圧倒的な勢いで降りかかってきました。観客全体がその音にあわせて身体を動かすと、Fillmore はまさに揺れ動いていました。ステージ上の大きなスクリーンには、絶えずライトショーが展開され、サイケデリックなムードを醸し出しています(それだけでイッテしまいそうな感じ)。Fillmore という空間に心地良く密閉され、「これでもか」という程の音を浴びたのです。
スタートはノリの良いR&Rナンバー。続いてライヴでは久々に演奏される”Jammin’ Me”といきなりの”Runnin’ Down A Dream”が繰り出され、その時点でもうヘロヘロです。そして、とどめに”Time Is On My Side”が歌われる頃には、スッカリ魔法にかかって別世界に連れて行かれたようでした。
途中、少し落ち着くはずのアコースティック・パートでも、テンションの高さは持続されており、全く息は抜けません。その中でいくつかの曲は、オリジナルとアレンジを変えて披露されました。勿論、会場中が大合唱です。”American Girl”や”Even The Losers” “The Wild One, Forever”は本当に感動的でした。また、”I Won’t Back Down”では、会場が厳かなムードに包まれたのを記憶しています。
その後、ステージに Roger McGuinn が登場。トレードマークの12弦リッケンバッカーも一緒です。そこからはとにかく楽しい The Byrds ナンバーのセッションに。嬉しいことに “It Won’t Be Wrong””Drug Store Truck Drivin’ Man” なんて珍しい曲を披露してくれました。最後に Roger が “I Want To Hold Your Hand”を始めた時は、TPは少しビックリしたような顔を見せました。打合わせになかったのでしょうか。
とにかく充実してました。一晩で27曲+アンコール2曲、約3時間の演奏。飛び出す曲はどれも意表を突いていて、バラエティに富んでいる。お馴染みの彼らの曲に加えて、素晴らしいカヴァー曲のオンパレード、しかも Roger McGuinn 付。ああ、こんな夢のような時間が過ごせるとは… その後、長らく放心状態に陥っていたのは言うまでもありません。
☆ 16th night: February 1, 1997
昨日は初めてのTP&HBに興奮して、何が何だかわからない(でも最高な)状況でした。2日目のこの日は、ほんの少しだけ勝手もわかり、その分、彼らの演奏に集中することが出来たと言えましょうか。それでも演奏が始まってしまうと、結局は前日と同じようにジェットコースター状態でしたが。
2月1日のその日は丁度、Mike Campbell の47回目の誕生日、みんなで「Happy Birthday」の歌を合唱しました。Mike は嬉しそうに、いつもの控えめな笑顔を振りまいていました。
今回のライヴでは、インストゥルメンタル曲が多く披露されました。Mike のギター・コーナー(?)では、一日交代で”Goldfinger”と”Slaughter On 10th Avenue”が演奏され、まさに独壇場です。時に力強く、時にムードたっぷり、表情豊かな演奏です。”Goldfinger”なんて身体が溶けそうな感じで、観客も大喜び。勿論、Mike 本人が一番楽しそうでした。
そして忘れてならないのが、Ben の好きな曲として取り上げられた Booker T.&The MG’s の”Green Onions”。今でもこの曲を聞くと、私の頭の中に Fillmore の情景が広がるくらい、強烈な印象を与えてくれました。60年代の音を思い起こさせる深みがあって、とにかく素晴らしいのです。ちなみに、ほとんどのインストゥメンタルの演奏の時もTPは休まず、楽しそうにリズム・ギターで参加していました。
この日演奏された中で特に印象に残っているのは、”On The Street”と”Friend Of The Devil”。前者は Mudcrutch 時代の Benmont の曲で、ライヴで取り上げるのは本当に珍しいのです(初めてかも)。後者は Grateful Dead の曲(Fillmoreにはピッタリ)で、実に自然に演奏されていました。この時しか聞いていないのに、今でもしっかり覚えています。
また、この日も後半に Roger McGuinn が登場し、昨日とは違う Byrds ナンバーを演奏してくれました。TPもカバーしている”Feel A Whole Lot Better”は楽しかったし、”You Ain’t Goin’ Nowhere”は嬉しかったし。そして、”Eight Miles High”が一大ジャムセッションと化したのは言うまでもないでしょう。とにかく、TP&HB も Roger も楽しそうでした。
29曲+アンコール3曲。演奏曲目も昨日とは違っているものが多く、更に満足でした。
☆ 17th night: February 3, 1997
私にとって最終日となるこの日、想いは複雑でした。ようやくライヴの雰囲気にも慣れて、少しは冷静に楽しむことができるはずなのですが、これが最後なのだという寂しさは消えようもありません。初日のテンションの高さとは違って、感傷的な心持ちになってしまいました。それでも、何とか彼らの姿と演奏を焼き付け、同時にできるだけ客観的にライヴ全体を捉えようと考えました。
もっとも、その試みは成功しませんでした。Fillmore という会場はコンサート会場というよりは、大きめのライヴ・ハウスという感じで、満員の観客の中で彼らの演奏を聞くとなると、冷静でいられようがありません。そして、嬉しいことに3日間とも私は、かなりの至近距離でライヴを観ることが出来たのです(それは周囲の方々の親切によるのです)。毎回、前から数列目の正面寄りの場所で、TPや Mikeとバッチリ目が会うのです。それだけで天にも昇る気分になるでしょう。本当に幸運に恵まれました。
この日は26曲+アンコール5曲。”You Really Got Me” “Knockin’ On Heaven’s Door”まで飛び出しました。そして、アンコールの最後には”Allright For Now”。至れり尽くせりです。
演奏曲目に関しては、とにかく3日間とも驚きの連続でした。何度も言うように、本当にバラエティに富んでいるのです。TP&HB自身のナンバーでも、初期の珍しいものが多く取り上げられ、またいくつかはオリジナルと違うアレンジでした。そして、カヴァー曲の数々からは、彼らの音楽に対する愛情が感じられると同時に、その幅広さに改めて感心してしまいました。
ライヴが終った後は、充足感と同時に寂しさがやって来て、しばらく Fillmore のフロアに立ち尽くしていました。終演の合図に流す”Green Sleeves”が寂しさを倍加させます。そして、次第にいろいろな感情が浮かんできました。
もの凄いものを見たという充足感。やっぱり、Tom Petty and the Heartbreakers は素晴らしかったという感激。ここまで来たのは大正解だったという満足感。こんな経験は滅多に出来るものではない、きっと一生モノの出来事に違いないという確信。そして、また絶対に彼らのライヴを体験したという強い希望。(etc…)何よりも、この充実感とハッピーな気持ちを支えに、しばらく(もしかしたら一生?)生きていける、そんな風に感じていました。
とにかく感謝を捧げます。 Tom Petty and the Heartbreakers に、そして Fillmore に。最高の3日間でした。